2016年02月01日
ある離島でのファインプレー
はいさい! 空飛ぶひ〜じゃ〜こと、浦添総合病院救命救急センター長 八木正晴です。
今回は、ある離島診療所の医師が、素晴らしい判断でドクターヘリを要請し、一緒に医療活動することができたので、みなさんにご報告と、協力していただいた離島の方々へ感謝の気持ちを伝えたいと思います。
某月某日ダイビング中にその事故が起きました。60歳台の男性が、ダイビング中に突然意識消失したため、船に引き上げました。男性は反応がなかったためすぐに心肺蘇生術が開始され、近くの島へ搬送されました。連絡を受けた離島診療所医師は、港へ迎えに行く準備をしつつ、ドクターヘリを要請しました。そして、いつも使用しているランデブーポイントではなく、船が到着する港へ着陸を要請したのです。
我々はすぐに離陸しました。我々が到着した時にはすでに、離島診療所医師は、治療開始していましたが、直近にドクターヘリを降ろしてくれたおかげで、フライトスタッフもすぐに患者に接触することができました。
必要な処置を行ってすぐにドクターヘリに患者を収容し、本島の救命救急センターへ搬送することができました。残念ながら患者さんを救命することはできませんでしたが、実はこの何てことのなさそうな活動の中には、ダイビングショップスタッフと診療所医師の素晴らしい判断があったのです。
①ダイビングショップスタッフの好判断
実は、本症例のダイビングショップは、揚陸した島の店ではなかったのです。通常沖で事故があると自分たちの島に帰りがちですが、今回はより的には自分たちの島が近かったようですが、潮流の関係上今回揚陸した島に行くのが早いと判断したそうです。
②離島診療所医師の好判断
いつもだと、ダイビング中の事故は、診療所まで連れて行かれます。そこからドクターヘリが要請されるので、実際に事故が起こってからドクターヘリで救命救急センターまで搬送されるのに1時間以上かかることが普通でした。診療所医師が二次救命処置(人工呼吸と薬剤投与など)を施すまでに、15〜30分は最低かかります(事故発生場所による)。その間は、不安定な船の上で必死の心肺蘇生が行われるわけです。
しかし、今回の症例は、診療所医師が港へ行き、そこへドクターヘリを要請するという機転を働かせることによって、30分も救命救急センターへ搬入する時間を短縮することができました。
(写真は本件と無関係です)
救命することはできませんでしたが、このような現場のスタッフたちの患者を助けたいという意思が、かならずいつか身を結ぶと信じています。
しかし、いいことばかりではありません。いつも降りない場所にヘリコプターが降りるということは、着陸時のダウンウオッシュによって、島の人たちの財産を壊してしまうかもしれないということです。今回はたまたま器物の破損はなかったようですが、この先はわかりません。
もちろん、着陸前にパイロットが危険を感じたら着陸はしませんが、100%の保障はできません。
患者さんのそばにいる人(今回はダイビングショップのスタッフ)、離島診療所の医師・看護師・事務、村役場の職員、消防団員とすべての人たちが一人の命を救うために団結したことが僕はとても素晴らしいと素直に感動しました。そして、そんな一途な人たちのお手伝いができることがとても嬉しいです。
沖縄県は観光立県として、離島での事故に対しても人命第一に、県を挙げて、島を挙げて協力してくれていることがよく分かる一件でした。
今後も一人でも救命できるよう我々沖縄県ドクターヘリも頑張って行きますので、みなさん応援よろしくお願いします。
今回は、ある離島診療所の医師が、素晴らしい判断でドクターヘリを要請し、一緒に医療活動することができたので、みなさんにご報告と、協力していただいた離島の方々へ感謝の気持ちを伝えたいと思います。
某月某日ダイビング中にその事故が起きました。60歳台の男性が、ダイビング中に突然意識消失したため、船に引き上げました。男性は反応がなかったためすぐに心肺蘇生術が開始され、近くの島へ搬送されました。連絡を受けた離島診療所医師は、港へ迎えに行く準備をしつつ、ドクターヘリを要請しました。そして、いつも使用しているランデブーポイントではなく、船が到着する港へ着陸を要請したのです。
我々はすぐに離陸しました。我々が到着した時にはすでに、離島診療所医師は、治療開始していましたが、直近にドクターヘリを降ろしてくれたおかげで、フライトスタッフもすぐに患者に接触することができました。
必要な処置を行ってすぐにドクターヘリに患者を収容し、本島の救命救急センターへ搬送することができました。残念ながら患者さんを救命することはできませんでしたが、実はこの何てことのなさそうな活動の中には、ダイビングショップスタッフと診療所医師の素晴らしい判断があったのです。
①ダイビングショップスタッフの好判断
実は、本症例のダイビングショップは、揚陸した島の店ではなかったのです。通常沖で事故があると自分たちの島に帰りがちですが、今回はより的には自分たちの島が近かったようですが、潮流の関係上今回揚陸した島に行くのが早いと判断したそうです。
②離島診療所医師の好判断
いつもだと、ダイビング中の事故は、診療所まで連れて行かれます。そこからドクターヘリが要請されるので、実際に事故が起こってからドクターヘリで救命救急センターまで搬送されるのに1時間以上かかることが普通でした。診療所医師が二次救命処置(人工呼吸と薬剤投与など)を施すまでに、15〜30分は最低かかります(事故発生場所による)。その間は、不安定な船の上で必死の心肺蘇生が行われるわけです。
しかし、今回の症例は、診療所医師が港へ行き、そこへドクターヘリを要請するという機転を働かせることによって、30分も救命救急センターへ搬入する時間を短縮することができました。
(写真は本件と無関係です)
救命することはできませんでしたが、このような現場のスタッフたちの患者を助けたいという意思が、かならずいつか身を結ぶと信じています。
しかし、いいことばかりではありません。いつも降りない場所にヘリコプターが降りるということは、着陸時のダウンウオッシュによって、島の人たちの財産を壊してしまうかもしれないということです。今回はたまたま器物の破損はなかったようですが、この先はわかりません。
もちろん、着陸前にパイロットが危険を感じたら着陸はしませんが、100%の保障はできません。
患者さんのそばにいる人(今回はダイビングショップのスタッフ)、離島診療所の医師・看護師・事務、村役場の職員、消防団員とすべての人たちが一人の命を救うために団結したことが僕はとても素晴らしいと素直に感動しました。そして、そんな一途な人たちのお手伝いができることがとても嬉しいです。
沖縄県は観光立県として、離島での事故に対しても人命第一に、県を挙げて、島を挙げて協力してくれていることがよく分かる一件でした。
今後も一人でも救命できるよう我々沖縄県ドクターヘリも頑張って行きますので、みなさん応援よろしくお願いします。
Posted by ドクターヘリオキナワ1 at 16:58│Comments(4)
│現場
この記事へのコメント
ひ~じゃ~八木先生
お久しぶりです。
ブログ更新ですので、こちらに書き込みさせていただきます。
今回は、離島が散在する沖縄県の苦労と海のプロ意識をあらためて知る事例でした。ダイビングショップの揚陸選定は、広く海を知っているからこそですし、診療所医師の一秒もロスできないという活動が伝わってきます。
ダイビング中の事故は国内でも多いと思います(推測で申し訳ありません)。
同一事例は無いにしても、似たような事例で「沖縄スタイル」と呼べる活動方式が生み出されるのでは、と思うところです。
また、自動心マ機が全診療所に配備されれば良いのですが(防衛予算からみれば極めて少額のはずなのに)、今は無理なハナシでしょうか。
こちらは雪国なのに1月17日まで県中央部は積雪量ゼロでしたが、翌日から突然の大雪。そうなると、屋根の雪下ろしや落雪巻き込まれ事故が急に増えます。
雪下ろしでは心因性CPAの比率も高く、こちらの消防本部はルーカス2を使用してますが、足場が非常に悪い条件の救助には非常に有効なようです。
雪といえば1月24日、沖縄本島で初めての雪の観測でしたね。
本当に驚いたことと思います。
記録に残る年明けが良い一年への道標になりますよう祈念します。
お久しぶりです。
ブログ更新ですので、こちらに書き込みさせていただきます。
今回は、離島が散在する沖縄県の苦労と海のプロ意識をあらためて知る事例でした。ダイビングショップの揚陸選定は、広く海を知っているからこそですし、診療所医師の一秒もロスできないという活動が伝わってきます。
ダイビング中の事故は国内でも多いと思います(推測で申し訳ありません)。
同一事例は無いにしても、似たような事例で「沖縄スタイル」と呼べる活動方式が生み出されるのでは、と思うところです。
また、自動心マ機が全診療所に配備されれば良いのですが(防衛予算からみれば極めて少額のはずなのに)、今は無理なハナシでしょうか。
こちらは雪国なのに1月17日まで県中央部は積雪量ゼロでしたが、翌日から突然の大雪。そうなると、屋根の雪下ろしや落雪巻き込まれ事故が急に増えます。
雪下ろしでは心因性CPAの比率も高く、こちらの消防本部はルーカス2を使用してますが、足場が非常に悪い条件の救助には非常に有効なようです。
雪といえば1月24日、沖縄本島で初めての雪の観測でしたね。
本当に驚いたことと思います。
記録に残る年明けが良い一年への道標になりますよう祈念します。
Posted by まぎーまやー at 2016年02月02日 13:52
まぎ〜まや〜さん
ありがとうございます。
こういった好判断も、聞けばたいしたことないことのように聞こえてしまうのですが(実際に体験していない人は)、これを実行するのはかなりの決断力が必要になります。
自動心臓マッサージ機ですが、予算的には可能だと思いますが島でのCPAは、決して多くはありません。
それに配備するなら診療所でなくダイビングショップの船でしょうね。
確かにルーカス2があるといいですね。
しかし取り扱いや件数を考えると一つのダイビングショップや離島診療所で年に数件あるかないかですので、コスパは問題になるでしょう。
それでも一人雇う人件費よりは安いと思いますが。
沖縄で雪が降った時は東京にいました。残念です。
まぎ〜まや〜さんも良き1年になりますよう願っております。
ありがとうございます。
こういった好判断も、聞けばたいしたことないことのように聞こえてしまうのですが(実際に体験していない人は)、これを実行するのはかなりの決断力が必要になります。
自動心臓マッサージ機ですが、予算的には可能だと思いますが島でのCPAは、決して多くはありません。
それに配備するなら診療所でなくダイビングショップの船でしょうね。
確かにルーカス2があるといいですね。
しかし取り扱いや件数を考えると一つのダイビングショップや離島診療所で年に数件あるかないかですので、コスパは問題になるでしょう。
それでも一人雇う人件費よりは安いと思いますが。
沖縄で雪が降った時は東京にいました。残念です。
まぎ〜まや〜さんも良き1年になりますよう願っております。
Posted by ドクターヘリオキナワ1 at 2016年02月03日 20:46
ひ~じゃ~先生八木さま
いつもご多忙な中、コメントをいただき恐縮です。
救命に関わる方々に対し「救命できて当たり前」と思う市民が今はまだ多いのでしょうね。「経験と勇気(一般市民は、まず勇気)が命を救う」ことを広く知ってもらいたいと思います。
救急講習で「AEDの使い方だけ教えて」「時間がないから簡単に」などという人たちの気持ちを変えられればと思います。
なるほど、ルーカス2はダイビングショップの船搭載は効果が見込めますね。
そこで疑問が…船なりショップに置いた場合、医師や救命士以外に使用可能か? と疑問がわき、取扱元に尋ねました。(勉強不足です)
結果、一般市民が絶対使用してはならないという法律が今のところないということでした。
「緊急避難」と考えれば市民の使用も可能と思いますが、常設となると「使う前提にあった」とみられると思います。最近、米国並みの訴訟社会になりつつあるこの国ですから、難しい問題になるかも知れませんね。
担当の方は「法的なことより価格がネックですよね」と話してましたが。
AEDも市民使用が容認され12年ですが、これも法的に曖昧なところがあるとも申されました。日本の不思議?です。
いつもながら、思いつくままの乱文で失礼します。
また、メールでもお邪魔します。
いつもご多忙な中、コメントをいただき恐縮です。
救命に関わる方々に対し「救命できて当たり前」と思う市民が今はまだ多いのでしょうね。「経験と勇気(一般市民は、まず勇気)が命を救う」ことを広く知ってもらいたいと思います。
救急講習で「AEDの使い方だけ教えて」「時間がないから簡単に」などという人たちの気持ちを変えられればと思います。
なるほど、ルーカス2はダイビングショップの船搭載は効果が見込めますね。
そこで疑問が…船なりショップに置いた場合、医師や救命士以外に使用可能か? と疑問がわき、取扱元に尋ねました。(勉強不足です)
結果、一般市民が絶対使用してはならないという法律が今のところないということでした。
「緊急避難」と考えれば市民の使用も可能と思いますが、常設となると「使う前提にあった」とみられると思います。最近、米国並みの訴訟社会になりつつあるこの国ですから、難しい問題になるかも知れませんね。
担当の方は「法的なことより価格がネックですよね」と話してましたが。
AEDも市民使用が容認され12年ですが、これも法的に曖昧なところがあるとも申されました。日本の不思議?です。
いつもながら、思いつくままの乱文で失礼します。
また、メールでもお邪魔します。
Posted by まぎ〜まや〜 at 2016年02月05日 16:44
まぎ〜まや〜さん
いつもありがとうございます。
返信が遅くすいません。メールでも議論したかもしれませんが、ルーカスを一般市民(もっと限定的ですね。ライフセーバーなどでしょうか)が使用するというのは、面白いですね。
値段はネックになるでしょう。
沖縄県は、マリンレジャー中の事故が多いようなので、県の問題として予算を計上してもいいかもしれません。
ルーカスを医療従事者以外が使用することを考えたことがないですが、なんか法的規制があるか調べてみます。
いつもありがとうございます。
返信が遅くすいません。メールでも議論したかもしれませんが、ルーカスを一般市民(もっと限定的ですね。ライフセーバーなどでしょうか)が使用するというのは、面白いですね。
値段はネックになるでしょう。
沖縄県は、マリンレジャー中の事故が多いようなので、県の問題として予算を計上してもいいかもしれません。
ルーカスを医療従事者以外が使用することを考えたことがないですが、なんか法的規制があるか調べてみます。
Posted by ドクターヘリオキナワ1 at 2016年04月03日 11:47