ある離島でのファインプレー
はいさい! 空飛ぶひ〜じゃ〜こと、浦添総合病院救命救急センター長 八木正晴です。
今回は、ある離島診療所の医師が、素晴らしい判断でドクターヘリを要請し、一緒に医療活動することができたので、みなさんにご報告と、協力していただいた離島の方々へ感謝の気持ちを伝えたいと思います。
某月某日ダイビング中にその事故が起きました。60歳台の男性が、ダイビング中に突然意識消失したため、船に引き上げました。男性は反応がなかったためすぐに心肺蘇生術が開始され、近くの島へ搬送されました。連絡を受けた離島診療所医師は、港へ迎えに行く準備をしつつ、ドクターヘリを要請しました。そして、いつも使用しているランデブーポイントではなく、船が到着する港へ着陸を要請したのです。
我々はすぐに離陸しました。我々が到着した時にはすでに、離島診療所医師は、治療開始していましたが、直近にドクターヘリを降ろしてくれたおかげで、フライトスタッフもすぐに患者に接触することができました。
必要な処置を行ってすぐにドクターヘリに患者を収容し、本島の救命救急センターへ搬送することができました。残念ながら患者さんを救命することはできませんでしたが、実はこの何てことのなさそうな活動の中には、ダイビングショップスタッフと診療所医師の素晴らしい判断があったのです。
①ダイビングショップスタッフの好判断
実は、本症例のダイビングショップは、揚陸した島の店ではなかったのです。通常沖で事故があると自分たちの島に帰りがちですが、今回はより的には自分たちの島が近かったようですが、潮流の関係上今回揚陸した島に行くのが早いと判断したそうです。
②離島診療所医師の好判断
いつもだと、ダイビング中の事故は、診療所まで連れて行かれます。そこからドクターヘリが要請されるので、実際に事故が起こってからドクターヘリで救命救急センターまで搬送されるのに1時間以上かかることが普通でした。診療所医師が二次救命処置(人工呼吸と薬剤投与など)を施すまでに、15〜30分は最低かかります(事故発生場所による)。その間は、不安定な船の上で必死の心肺蘇生が行われるわけです。
しかし、今回の症例は、診療所医師が港へ行き、そこへドクターヘリを要請するという機転を働かせることによって、30分も救命救急センターへ搬入する時間を短縮することができました。
(写真は本件と無関係です)
救命することはできませんでしたが、このような現場のスタッフたちの患者を助けたいという意思が、かならずいつか身を結ぶと信じています。
しかし、いいことばかりではありません。いつも降りない場所にヘリコプターが降りるということは、着陸時のダウンウオッシュによって、島の人たちの財産を壊してしまうかもしれないということです。今回はたまたま器物の破損はなかったようですが、この先はわかりません。
もちろん、着陸前にパイロットが危険を感じたら着陸はしませんが、100%の保障はできません。
患者さんのそばにいる人(今回はダイビングショップのスタッフ)、離島診療所の医師・看護師・事務、村役場の職員、消防団員とすべての人たちが一人の命を救うために団結したことが僕はとても素晴らしいと素直に感動しました。そして、そんな一途な人たちのお手伝いができることがとても嬉しいです。
沖縄県は観光立県として、離島での事故に対しても人命第一に、県を挙げて、島を挙げて協力してくれていることがよく分かる一件でした。
今後も一人でも救命できるよう我々沖縄県ドクターヘリも頑張って行きますので、みなさん応援よろしくお願いします。
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